矯正治療をすると、歯並びや咬み合わせが良くなり、機能も見た目のコンプレックスも改善され、虫歯や歯周病のリスクも減るし、いいことだらけ〜
といいたいところですが、薬に副作用のリスクがあるように、残念ながら矯正治療にも『歯根吸収』というリスクがあります
矯正治療を受けるにあたっては、このようなリスクがあることも知っておく必要があるでしょう
『歯根吸収』とは、歯を動かす過程で、歯の根っこの先が吸収されて歯根が短くなる現象です。
同じように治療しても、歯根吸収が起こる人 と起こらない人 がいて、またその吸収の程度も様々で、現時点では、治療前に予測や予防をすることが困難とされています。
( 🙄 ただし、歯根が皮質骨とよばれる硬い骨から露出するような力を加えることで生じる歯根吸収に関しては、治療前の検査により防ぐことが可能です。)
(注:矯正治療をしていなくても歯根の85%以上に吸収が認められる *1,2という報告や、矯正治療後には通常歯根吸収が認められる *3とする報告もありますが、ここでは、矯正治療中・後にX線写真で明らかに確認できる程度の歯根吸収とします)
【発生頻度】
歯根吸収の発生頻度は、過去の文献によると、
・中程度(2mm以上、歯根長の1/3以下)10〜17% *4,5,6
・重度(歯根長の1/3以上)1〜5% *7,8
・中程度〜重度(歯根長の1/4以上)10.3% *9
などと報告されています。
【発生部位】
どの歯にも起こる可能性はありますが、上顎の前歯に起こるケースが多いとされています *10。
【リスク要因】*9〜13
歯根吸収のリスクを高める要因としては、
・過度の矯正力
・歯根の形態異常(形態異常があると、歯を動かす際、そこに大きな矯正力がかかる)
・歯の移動距離が大きい
・長い治療期間(通常の治療期間は2〜3年程度)
・喘息
・アレルギーなどの免疫系に影響を及ぼす全身状態
などが指摘されています。
ただし、これらのリスク要因があっても歯根吸収を起こさない人も多くいるし、逆に、こうしたリスク要因が無い人でも歯根吸収を起こす場合があるのです 🙄
ちなみに、時々、「歯を早く動かそうとして歯に強い力をかけたのでは??」という声を耳にすることがありますが、
歯に強い力をかけたからといって歯が早く動くわけではありません
【対応】
歯根吸収に気づいた場合、そのまま治療を続行するのか、しばらく中断するのか、あるいは治療自体を中止するのかは、その時の程度や状況によって判断されます。
【予後】
僕の知る限りでは、経過観察をしながら通常通り自分の歯で問題なく生活をされている方がほとんどです。
ただし、歯周病や虫歯にならないよう注意して、短くなった歯根に負担をかけないようにすることが大切です。
🙄 ・・・僕もこれまで数百〜千を超える症例の中で数例ほど歯根吸収を生じたケースを経験しました。
現状においては、たとえ注意を払っていたとしても歯根吸収は不可避に近いと言われていますが、やはり実際に歯根吸収を目にするとショックを受けてしまいます
しかし、患者さんに説明すると、
「それよりも、今までコンプレックスだった出っ歯が治って人前で何も気にせず笑えるようになったし、物もちゃんと噛めるようになって嬉しいです。矯正してよかったです」と言っていただき、救われる思いがしました。
矯正治療に限らず、リスクが0でなければ治療は受けないのか?という問題は、その人の考え方によるでしょう。
それぞれを選択した場合のメリットとデメリットを比較して、メリットが大きい方を選択するのが良いと思います
《参考文献》
- Henry JL & Weinmann JP, J Am Dent Assoc.(1951)
- Brezniak N & Wasserstein A, Angle Orthod.(2016)
- Thilander B et al., Orthodontics.(2000)
- Linge L & Linge BL, Am J Orthod Dentofacial Orthop.(1991)
- Hollender L et al., Eur J Orthod.(1980)
- Tagaya Y et al., Orthod Waves.(1998)
- Levander E & Malmgren O, Eur J Orthod.(1988)
- Davidovitch Z, Harvard Society for the Advancement of Orthodontics.(1996)
- Nishioka M, Ioi H et al., Angle Orthod.(2006)
- Maués CP et al., Dental Press J Orthod.(2005)
- Lee RY et al., Am J Orthod Dentofacial Orthop.(1999)
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- Murata N, Ioi H et al., J Dent Res.(2013)